
東方西部域ヒゼキアの王都ア・ゴーンで第三の秘操兵《黒き僧正》を封じる神殿を警護する騎士。神官を務める《拝火》一族より他にはない特別な技が伝えられている。
大動乱の皮切りとされる隣国スラゼンの侵攻で祖国が滅亡し、逃げ遅れたバールは捕らえられて苛烈な拷問を受ける。その後放浪しているところを聖刻教会に拾われてダム・ダーラのもとに落ち着き、《土の門》の資質を見出され練法師になって新たな名を与えられる。
本来中途から術者となる場合は洗脳されて記憶が消された上に絶対服従という枷を嵌められるはずだったが、ダロトも精神耐性が高く、ダム・ダーラに対しても従順なふりを続けながら内心反抗の機会を窺っていた。
操兵はダム・ダーラから貸し出されたマ・ソウグで聖都計画に参加したが、王都神殿に保管されていたシーカ種の原形となった古操兵の上半身を載せてマソウグ・シーカと名を改めた。実はマ・ソウグも大昔にヒゼキアから入手したもので、両者が合体したことで八機神のひとつ《土虎の操兵》ツォノ・パドゥマ・クベーラとなる。ただし本来の名と姿を取り戻すにはいくつもの条件があった。
(聖都編)
聖華八門のひとり《土の門》ダロトとなり、グルーンワルズ傭兵騎士団の団長ガシュガル・メヒムとの連絡役を務める。
実はガシュガルはヒゼキア時代の同僚で個人的にも親しくしていた。加えてガシュガルが腹心とするゼナムがヒゼキア王家の生き残りと知っており、祖国再興を旧友に持ちかける。ゼナムを本来の地位に就けることはガシュガルの夢であり、一も二もなく話に乗る。そのガシュガルがクリシュナとの戦いで血に狂ってゼナムを殺してしまった時は、茫然自失の友を戦場から遠ざけてゼナムの遺骸を機体ごと持ち去った。
(東方編)
《黒き操兵》がゴナ砂漠で四散したことでダム・ダーラが死亡したと思い込んだバールは、かねてからの野望である祖国再興と侵略者に対しての復讐に乗り出す。ヒゼキア公子ダウスの蘇生と、ガシュガル・メヒムとともにヒゼキア解放軍の旗揚げ、今も神殿跡に眠る《黒き僧正》の封印を解いて絶対的な力を得ようとするが、実のところ計画自体がダム・ダーラによって予め刷り込まれていたものだと気づいていなかった。
その準備段階として《僧正》復活の鍵となる《炎蛇の錫》と生贄に捧げる操手を確保する必要があった。そこで《拝火》の移住先に乗り込み、一族の若者を煽動し、族長の息子オーザム他十数人を錫とともに連れ出した。オーザムは生贄候補であり、他の若者は手駒として使った。
(僧正編)
ザゴーラ・ジャベルのヒゼキア解放軍を乗っ取る形で、対外的な体裁を手に入れたバールは、ガシュガル・メヒムとジャラン・ナム率いる鬼面兵団を実働部隊に据えて国盗りを開始する。また故国を滅ぼしながらやはり強国ハグドーンに滅ぼされたスラゼン残党と手を組み、戦力の増強とより多くの民衆の支持を集めることに成功する。
ヒゼキアにとって不倶戴天の敵だが、同盟を組むことの政治的軍事的なメリットは大きい。スラゼン軍の背後には東方でも列強に数え上げられるライリツがおり、両解放軍が旧領土の奪回を図るのを利用してハグドーン本体を攻め滅ぼそうとしていたからだ。
ライリツにとってヒゼキアとスラゼンが国を取り戻したとしても遠からず滅ぼすことができると信じていた。当然バールは大国の冷酷な切り捨ても想定しており、そのための《僧正》復活だった。綿密な制御はできなくとも敵を定めて誘導はできる。太古に東方すべてを焦土に変えた天災級の怪物ならばライリツとてうまい。
万が一矛先がヒゼキアに向いて自滅したとしても野心成就と復讐を達成するためには仕方ないと思っていた。ダム・ダーラの意識誘導によるものだとしても、精神に異常をきたしていることも確かだった。
(神樹編)
《僧正》は再封印されて、ゼナムやガシュガルは死に、連合国はエルシェラを女王として戴き、再出発を飾った。しかし王宮にバールの姿はない。すべてを失った男は野心の犠牲にした少女メルを呪いから解き放つためだけに生きていた。